クレシン

あれは夏の終わりのことでした
九月を過ぎたとはいえまだまだ気温は高く、

外に出ると大阪特有の湿り気をねっとりと含んだ

熱風にさらされるような夜だったと思います

仕事が一段落ついて腰掛けたせいなのか、

私はいつの間にか微睡んでいたようです

とはいえ睡眠は充分にとっておりましたので、

やはり何かの作用によって曖昧な時間にやり込まれた

というほうが正しいのかもしれません

、、、チリン

微かな金属音によって半覚醒した私は寝ぼけ眼でしたが、

目の前三十センチほどの位置に何か棒状のものがあることに気付きました

おや、

と思い手をのばしかけましたが、あいにく身体は動きません

私は、相当疲れているんだな、

と思いしばらくの間そのままの姿勢でいることにしました

ペンか何かが落ちたんだろう
後で拾えばいい

そう考え、私はぼんやりとその棒状のものを見つめていたようです

しかし、そのうちに私の鈍くなった頭にも一つの疑問が湧いてきました

何故このペンは下に落ちない?

私はすぐに新種の虫を疑いました

こんなものに噛まれでもしたらどんなことになるか

虫を叩こうと手を動かそうとするのですが、

まだ身体は応えてくれません

どうしよう

みたところこの虫はなかなかの大きさがあります
私の命を奪うぐらいの毒は持っているかもしれません
私は敵を確かめるために目を凝らしました

するとどうでしょう
今まで虫だと考えていた目の前のものが、

虫という生命の条件を全く満たしていないようなのです

これは一体何なのか

私はこの時になって漸くことの重大さに気付きはじめ、

首すじと足元から同時に冷気を感じました

徐々に緊迫してきたその空気に応えるように、

私の身体を流れる悪寒
私の鼓動の高まりとともに少しずつその棒状のものが

こちらに振り向いてくるようにみえる

見てはいけない!

そうは思えど身体は動かず、私の意志ではどうにもなりません

少しずつ、少しずつ、それはこちらに正体をあらわそうとします

わかってはいけない!
理解してはいけない!

頭でそう考えれば考えるほど、私の眼差しはそれに魅入られたまま離れません

とうとう完全に振り向いたそれが私に向かい口を開いた瞬間、

私の防衛本能は、私に気を失わせました


、、、こんばんはー

新しいお客さんの声で目を覚ました私は

そのまま何事も無かったかのように営業を再開しました

しかし、私は未だにそれを忘れることが出来ません

振り向いたシャープペンシルは確かに私に向かい右手を軽く挙げ、


ヨッ!

 

と言ったのです

私はこのような思いを胸に抱えたまま生きていけるのでしょうか?

私が生きているこの世界は、

シャーペン前とシャーペン後で何も変わっていないのでしょうか?

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コメント: 2
  • #1

    Junko (火曜日, 08 11月 2011 18:18)

    頭の中のタイムトンネルに入っていたのては?

  • #2

    カイリモリ (火曜日, 08 11月 2011 19:16)

    変わってますね。確実に。

    ところでそのシャープペンシルはどこ社製ですか?